3Dモデリングとプリント

 設計には3DCADソフト「Fusion 360™」を使用。プリントにはFLASHFORGEの熱溶解積層タイプの「Adventurer3」を使用しプリントを繰り返しました。カップを設計するにあたり以下のスペックはモデリングとプリントを繰り返す中でその度に決め打ちました。最終的には以下の値となりました。

  • 飲み口直径:85mm
  • 高さ   :100mm
  • 抜き勾配 :6度
  • くぼみ直径:22mm

飲み口直径は手元にあったマグカップを参考にし、高さは金型メーカーのサイズ規定から、抜き勾配も手元にあったマグカップを参考。指がかかるくぼみの直径は指1本よりも少し太い程度の22mmとしました。これらの数値をもとにモデリングし水を一杯に満たして重心位置を計測。そしてくぼみの位置再度修正し重心位置計測し直す。これを繰り返すことでカップと飲料物の重心位置と支点となるくぼみ頂点が完全に一致したモデルができあがります。このモデルを3Dプリンタで出力し使い心地を確かめていきます。モデリング過程と出来上がった3Dモデルです。Sketchfabから3Dモデルをダウンロード可能です(表示-非営利 CC BY-NC)。

モデリング過程
試作した3Dプリント品

意匠出願

 3Dモデルが固まったところで権利関係を考えます。少しカッコいいぐらいのデザインであれば別ですが、このカップのコンセプトには普遍性がありより多くの人に届きうるものであると思います。そこで意匠出願を検討します。

魅力的なデザインは、市場での競争力を高める一方で、模倣の対象になり得ます。意匠制度は、新しく創作された意匠を創作者の財産と位置付け、その保護と利用のルールについて定めることにより、意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としています。意匠法の保護対象となる「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいい、物品の「部分」のデザインも「意匠」に含まれます。

特許庁 意匠制度の概要 https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/torokugaiyo/index.html

デザイン方法を完全にアルゴリズム化すれば特許なども考えられるかもしれませんが、実際には恣意的に設計した部分や形状もあるため、今回は物品の形状ということで意匠出願にします。以下リンク先から登録された意匠を閲覧することができます。

意匠登録第1706061号

金型

 意匠登録と並行して量産の準備に入ります。樹脂を材料とした射出成形で量産します。

射出成形は金型を用いた成形法の一つです。合成樹脂(プラスチック)などの材料を加熱して溶かし、金型に送り込んだ後、冷やすことで目的とする成形を行います。注射器で液体を送り込む様子に似ていることから、「射出成形」と呼ばれるようになっています。加工の流れとしては、材料を「溶かす」から始まり、「流す」「固める」「取り出す」「仕上げ加工」の順となります。
射出成形では複雑な形状を含めて多様な形の部品を、連続して素早く大量に製造することができます。そのため、日用品をはじめとして幅広い分野の製品で利用されています。

キーエンス 射出成形とは
https://www.keyence.co.jp/ss/products/measure-sys/machining/injection-molding/about.jsp
射出成形アニメ

金型はプロトラブズ合同会社に依頼しました。現在日本法人は閉鎖していますが、オンデマンドで自動見積してくれるサービスで、樹脂の流動性問題箇所なども自動で指摘してくれるため完全な金型素人には非常に助けとなったサービスでした。見積後も後日サポートスタッフと技術的な相談などをして金型を作っていきました。樹脂の種類は、電子レンジや食器洗浄機対応を考えるとポリプロピレンでした。耐熱性、耐薬品性、吸湿性が無いため長く使い続けることができます。

問題は樹脂成型色の調色でした。希望の色見本を送ればそれで済むと思い込んでいた私はここで悩みました。アナログ調色はデジタルのように色見本だけで済む話ではなく、材質、厚み、表面処理などで変容するため、材質等同程度の物理的な色見本となるものを用意しなければなりません。このような色にしたいという希望はありますが、それと近い物を探すのに苦労しました。最終的にパール金属のマグカップにしました。アイボリー色の暖かい色合いが当初想定していた希望色に近いものでした。

色見本としてパール金属のマグカップ
出来上がった試作品
人間工学に基づいた最も持ちやすいカップ